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缶ビールはすぐに温くなった。
無駄に元気な太陽のもと、真夏の空気は、冷えた缶を一瞬で水滴まみれにしてしまう。
こんな日に公園のベンチに長居するのは余程の変わり者だ。
しかし初美はそこに座っていたかった。
蝉の鳴き声が、何処よりもうるさく響いてくれるから。
「お酒は二十歳になってから……」
初美は空にかざしたビール缶を見つめ、意味もなく缶に書かれた表記をぽつりと呟いた。
初美が「缶に書かれた表記」を破ったのは、確か17歳の時である。
酒を覚えた頃、同時に男女の関係も覚えた。
畑違いのサラリーマンであった洋介に迫ったのも、
あの頃は何か正体不明な自信に満ち溢れていたからかもしれない、と初美は思った。
19歳の春、初美は身篭った。
生理が止まり、髭を生やした産婦人科医から妊娠を告げられた時、
初美はエイリアンに遭遇したような唐突な違和感を感じた。
快楽の行為と生命の誕生、初美はその因果関係が理解できていなかった。
そして、そのエイリアンを産んだ夜、初美は目の前の赤ん坊の気持ち悪さに嘔吐した。
エイリアンを愛おしそうに抱きかかえ、涙ぐむ洋介が全く理解できなかった。
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