~ALIEN~ 短編/完結

3/4
前へ
/4ページ
次へ
 ビールはすっかりお湯と化していた。 温かいビールを飲む趣向のある人が居れば、喜んで寄贈するところだが、 どうやらそんな人物は見当たらないので、クズ籠に向かう事にした。  初美は斜め向こうにある砂場を眺め見た。 炎天下の日差しに焼けた砂を触る子供、 「幸」という象形文字の元になったような笑みをたたえた母親。  「親子……か。わたしにも、ほんの少し前まで」  洋介の事は愛していた。性格には「恋していた」のかもしれない。 しかし、エイリアンの事は愛せなかった。  吐くほど気持ちの悪かった嬰児は、やけに豪華な産婦人科の夕食を数える間に大きくなり、 どう見ても自分の知っている「赤ん坊」の姿になっていった。 そして、とうとうそれは自宅にまでやってきた。 初美にとって、それは邪魔という2文字以外の何者でもなかった。  3歳になった赤ん坊には、無垢な白い肌に青痣やねずみ腫れが刻み付けられていった。 児童相談所が調査した際、初美の怒声を聞いていた隣人の証言はこうだった。  「何であんたなんかが居るのよ」  「あんたさえいなければ」  「何であいつは避妊しなかったのよ」  それは赤ん坊に向けられた言葉では無かった。 快楽を貪り、理想像の幸せを求め、その結果、訳も解らず出現したエイリアンのような我が子。 理解不能な現状に対する怒りを、目の前のエイリアンにぶちまけているだけだった。 その怒りは、醜悪なヘドロの様にどす黒く渦巻いていた。  初美がようやく、起きている事実を把握できた時、 それは洋介と義理の母によって、初美と子供を隔離した後であった。  ドラマでしか見たことの無い離婚届けが郵送されてきたのは、そのすぐ後の事だった。  ―*―*―*―*―
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加