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校舎の周りに駐車された車の窓ガラスは、ゴビ砂漠からの迷惑な贈り物で黄色く曇り、
桜並木も異様なほど青々としたグリーンに覆われてきた。
祐二に残された時間は短い。
案の定、権力の維持を狙う「強い」連中が、早くも新しい連合を組織し始めた。
祐二はそんな「強い」連中を、心の中で「サメ」と呼んでいた。
「サメ」は血に飢えている。クラスを周泳しながら、イジメ易い生け贄を品定めしているのだ。
鉛色の空が重苦しいある日、登校し、教室に入った祐二は強烈な吐き気に襲われた。
見てしまったのだ、あるモノを。
それは、祐二の席の横だけ不自然なスペースが空いた女子の席だった。
前のクラスでも、その前のクラスでもそうだった。
新しいクラスでこそ女子と普通に話がしたい、祐二の願望は早朝の露と消えた。
祐二は休み時間になると、決まって彼の席へ直行した。
明らかに自分と同じ匂いのする彼。彼もまた、隣の席は不自然なスペースができている。
彼と話しているのは楽だった。
今までの自分で居られるし、何も変化を起こさなくても良いから。
しかし祐二はそんな現状を嫌悪した。
これでは何も変わらない、同じ穴の狢とだけ話して、また毎年毎年の繰り返しだ。
このままでは女子の席も前後に移動したまま戻って来ないし、
体育の時間には、またびくびく怯えながら高速で着替える事になるのだ。
それでも、それでも祐二は彼と付き合う事を止められない。
誰かと話している事を周りに見せたい、休み時間に独りだと思われたくない、
それが全てである。
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