天使のくちづけ

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 新宿大ガード下を抜けて、西武新宿駅の前を過ぎ、歌舞伎町を左手に見やった。夜になっても明るく騒々しいこの街を私は愛している。だからここで、死に場所を探そうと思っていた。できるなら、一緒に死んでくれる人も探して。  私は酷く酔っていた。中野坂上の居酒屋で一人酒を煽るようにのみ、ふらふらと店を出て、無意識のうちにこの街まで歩いてきた。歩きながら、酔いは悲しみに変わっていった。覚めれば、どうにもならない現実がそこにあるだけなのだ。    今死ぬことに特別の意味はない。酔った勢いといえばそれまでだ。けれども、決して出来心というのではない。死ぬ理由より、生きている理由の方が思い浮かばないのだ。前々から考えていたことを実行するのは今だと酔っぱらった頭の芯の部分が私に告げた。  この街では、人が死ぬことなど珍しくもないだろうから。  
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