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翌日、遅く起きた私が店に出ると、
ちょうど一人の男性客が席を立って出て行くところだった。
何となく妙に気になって彼が居た席を見ると
メモ用紙が残されていて こう書いてあった。
「ありがとう。 いつかまた会える。」
彼だ! 夢で会った彼だ! そして私は漸く思い出した。
短い間だったが高校時代に彼と交際していた事。
やがて別れが来ること。
再会のための32文字のおまじない!
・・・私は利用されたのかも知れない。
おそらくあのおまじないは何かの暗号で、
彼は私をメモリーとして利用したのだ。
だけど、すぐに考え直す。
理由は判らないけれど、
きっとそうしなければならない事情があったのだろう。
彼が何者で、
どうやって私の夢に入り込んだのか、そんな事はどうでも良いのだ。
あの時間、二人で育んだ思いは,決してまぼろしでは無いという確信が
私の中には確かに残っているのだから。
今の私には利用された悔しさよりも
彼の役に立てた喜びの方が遥かに大きい。
彼が居たテーブルの前にいつまでも佇む私を見て
母が不思議そうな顔をしている。
私は残されたメモを握りしめて小さく呟いた。
・・・「きっといつか、また会える・・・。」
おわり
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