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※※※
大げさに言うと、俺は雪かきという作業から目を背けていた。おかんが頑張ってやっている姿すら見たくなかったのだ。
それでも、たまには手伝ったほうがいいかなと思い、ある日、二階にある両親の寝室の出窓から外を眺めた。するとだ。小さな女のコの姿が視界に飛び込んできた。お隣さんちのコだ。引っ越しの挨拶回りの際に顔を合わせた記憶が、かろうじて残っている。六つか七つといったところだろう。もこもこした赤いコートを着込んでいる。驚くべきことは、そのコのうちの前の雪が、すっぽりとないという点だ。
あのコが一人で家の前を綺麗にした?
あんなおちびちゃんが?
女のコはえらくご満悦のように見える。雪を一掃したことに満足しているようだ。腰に両手を当て、えっへんとでも言わんばかりに胸を張っている。
そして、女のコはうちの前の雪かきも始めた。おかんを助けるのだ。プラスティック製の大きなスコップを使って大きなスノーダンプ(界隈では”ママさんダンプ”というらしい)がいっぱいになるまで雪を盛り、その”ママさんダンプ”に積んだ雪を、よいしょよいしょと車道を渡った向こうにある小川に捨てるのである。きびきびしていて動きがいい。おかんよりずっと手際よく排雪する。
二人が雪かきをする様子は、ぬくもりをわざとらしく描いたホームドラマなんかを見るよりずっと微笑ましく感ぜられた。
※※※
その日の夕食時、おかんと二人でビーフシチューを食べている最中に、俺は言った。
「おかん、雪かき、明日から俺がやったるわ」
「えっ」
「とにかくやったる」
「どういう風の吹き回しなん?」
「色々あんねん」
実は、色々はない。
やってみよう、やってやろう。
そんな純粋な気持ちに駆られただけのことだった。
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