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 また春が来た。  僕は桜の花びらが舞うウッドデッキに足を踏み入れる。  窓に向かって踊り続けていた彼女がダンスを止める。振り向いた彼女の額に汗が滲んでいた。肩で息をしながら音楽プレイヤーを止めた。 「ちょうどよかった。動画、撮ってほしい。なんかうまく踊れてる気がしなくて」 「またオレは撮影係か」 「別にいいじゃん。暇なんでしょ?」 「在宅でも仕事はあるんだけどな」  そう言いつつも僕はウッドデッキに置かれていた携帯電話を手に取る。「よろしい」と彼女が微笑む。  すると、背後から声がした。 「あんまり甘やかしちゃダメだよ」  その声に僕は振り返る。    そこには、千咲が立っていた。  ダンススタジオで講師として勤める彼女は、夜になると娘の個人レッスン担当だ。今日もスタジオレッスンが終わり、帰ってきたところだった。 「私が見てあげるから。パパは中に入ってて」 「えー、ママの言うこと厳しいからイヤだよ。パパが撮ってくれたのを後から観るほうがいい」  実咲は口をへの字にして、千咲へ不満の意志を示した。僕は苦笑いをしながら携帯電話の動画モードを起動する。 「まぁまぁ、一回ぐらいオレが撮るって」 「やった! さすがパパ!」 「本っ当に甘いんだから!」  色褪せたウッドデッキに、優しい風が吹いた。  愛する家族とこうやって笑い合える場所、僕はこの場所で過ごせる時間が本当に大好きだ。
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