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 庭に出ると、ウッドデッキにその人は立っていた。  敷き詰められた砂利に踏み入れた足音にその人は気づき、振り返った。  最後に会ってから長い月日が過ぎていたが、見間違えるはずはなかった。  彼女は、千咲だった。 「東京の大学に進んで、東京で働いているって聞いたけど……?」  千咲が言った。僕を見る目はどこか寂し気に見えた。 「そうだね。ずっと東京で働いていたよ」  その言葉に「そう」と千咲は言った。僕が「働いていた」と過去形で言ったことは気づいていないらしい。 「知ってるかもだけど……私の家ね、どこぞのお金持ちに買われちゃったんだって」  ウッドデッキから千咲は軽くふわりと飛び、砂利へと降りた。そして、ウッドデッキに腰かけた。 「色は少し変わったけど、見た目は昔のままなのにね。もう私の家じゃないんだって」 「そこでダンスしていれば、十代の頃に戻れるような気がするな」  僕が言うと「そうだね」と千咲は少し笑った。どこか力がない微笑みに見えた。 「そう……、あの頃に戻りたいね。おっきな場所で踊ることだけ夢見てた頃に」  インターネット上の断片的な情報でしか、千咲がどうしていたのか僕は知らない。だから、どれほどのものを千咲が背負っているのか僕にはわからない。  それでも千咲を救うことができるのは自分だけだと思った。 「オレさ、東京の仕事、辞めたんだ」 「え?」 「ちょっといろいろあって疲れちゃってさ、もう一度、原点に戻ってこの場所からやり直そうと思ってる」  僕は右足を上げ、ウッドデッキに上った。色褪せたウッドデッキはギシギシと軋む音を立てた。 「生まれ育った場所だからな、もう一度自分を見つめなおすには一番いい場所だよね。ここで千咲の踊る姿を飽きるぐらい撮ってたおかげでいろんな出会いや仕事に恵まれた」 「……どういうこと? 話が全然見えないんだけど」 「だから、この場所からやり直してみるって話。オレはここからまたやり直す。千咲は?」  千咲は首を横に振った。 「でも、この家はもう私の家じゃないし、ここからやり直すとか私には……」 「この家はオレが買ったんだよ」 「え……? 何を……、まさか……、どこぞのお金持ちって……」  千咲はウッドデッキから立ち上がり僕を見上げた。驚いた表情の千咲に僕は笑みを抑えることができなかった。 「オレだよ、まぁどこの企業にも所属していないし、お金持ちでもないけどね。まとまったお金があったから千咲の家を買ったんだ。千咲が望めばもう一度ここからやり直せる」 「なんか……、夢を見てるのかな……」  僕はウッドデッキから降り、千咲の前に立った。驚いた表情のままの千咲に、僕はもう一度告げる。 「オレはここからまたやり直す。千咲は?」
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