第17話 頼りない電灯が、まるで舞台装置の一部の様で

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「ねぇ、とっておきの特等席がある事思い出した。花火のフィナーレはそこで見よう」 「特等席?」 「うん。こっち」  御堂は花火を背にし、人混みから離れるように暗い道を歩き出す。紗良は逸れないよう、慌てて御堂のシャツを掴んだ。歩みを進めるごとに見物客の数は減っていき、公園を抜けた頃にはすっかりまばらになっていた。御堂は一言も話さなかったが、先程感傷的になっていたように見えたので、紗良もあえて何も話しかけずに黙って歩く。  どうやら御堂は小高い丘の上にある神社を目指している様だった。花火の音を背に聞きながら、境内へと続く石段を無言のまま登り始める。他に人の姿もなく、もうはぐれることもないだろうと、紗良は御堂のシャツから手をそっと離した。  ここまで一度も振り返らなかった御堂が、少しだけ紗良に顔を向ける。紗良がちゃんと付いてきていることが確認できると、また前を向いて歩き出した。  パチパチと点滅する今にも消えてしまいそうな頼りない電灯が、まるで舞台装置の一部の様で現実感が遠ざかる。石段を登り切った先にある境内の中央には、祭りの装飾なのか、蝋燭が円を描くように並んでいた。
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