第1話 あるいは運命だったのかもしれない

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第1話 あるいは運命だったのかもしれない

 その日は朝からずっと雨が降っていた。  しとしとなんて風流なものではなく、まるで蛇口全開で勢い良く出したシャワーのように、水しぶきを上げ強く地面を叩き続ける。雨は時間を追うごとに激しさを増し、下校時刻の頃には嵐のようになっていた。 「最悪だ……」  少女の恨みすら伴った独り言は、強い雨音にかき消される。胸まで届く黒い髪から、ポタポタと水滴が落ちた。おろしたての夏の制服をこれ以上濡らしたくなくて、少女は両手でしっかりと傘の柄を握り家路を急ぐ。カッパを着込み長靴を履いた子供とすれちがい、羨ましそうに横目で見た。あの二つの装備があれば怖いものなしだが、花の女子高生にそれはいかがなものかと思い直す。  実際には世間はそこまで他人をよく見ていないし興味もないのだが、この春念願の高校に受かり、憧れの「彼氏」と言う存在すらも得た彼女は、青春真っ只中にいてその自意識を高くしていた。  傘に穴が開くのではないかと思う程の大粒の雨を受けながら、ふと足元を見れば、水分をたっぷり含んで重くてずり下がってしまった靴下と泥まみれのローファーが目に入る。  何だかみすぼらしくて恥ずかしい。  家まではもうすぐだったが、そのためには人通りの多い大型スーパーの前を通らねばならなかった。こんな土砂降りの中、知り合いに合う確率は低いし傘で顔も隠れるのだから、このまま最短距離を行けば良い。そう考えつつ、ふと小路が目に入る。 ――ほんの気まぐれと偶然だった。しかし、あるいは運命だったのかもしれない。
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