掃除編-6章:近づく距離、揺れる思い

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一時期の逸脱も終わり、またいつも通りの生活が戻ってきた。目が覚めると会社に行って、仕事して、又戻ってくる。最初の数日は少しでも早く結果が知りたくて、まだ期間も残っているのに出版社のホームページを見たりもしたけど…それも忙しい日常に流れ、切実だった気持ちが徐々に薄くなってきた。 Mr. Pinkからの電話があったのも、丁度それくらいの時期だった。 「こんにちは。」 「あ、ハニー、いらっしゃい。久しぶりだね。」 もう何回も出入りしたおかげで結構慣れてきたオフィスのドアを押す。いつも通り挨拶をした彩響の目に、ソファーに座っている誰かが目に入った。その人も彩響に気付き、ソファーから立ち上がる。とても人の良さそうな感じで、表情も穏やかな中年女性だった。さっそく彼女が彩響の方へ早足で近づいてきた。 「あら、あなたが 『峯野彩響』さんですか?そうですよね?」 初対面のはずなのに、なぜかこの中年女性は自分の名前を知っている。驚いて目を丸くすると、彼女は早速自分の紹介をした。 「はじめまして、河原塚悦子と申します。」 「河原塚…」 この苗字、聞き覚えがある。いや、とても聞き慣れている苗字だ。なら、この中年女性は…。 「もしかして…。」 「そうです、成の母です!うちの息子がいつもお世話になっております!!」 (え?成のお母さん?!)
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