掃除編-6章:近づく距離、揺れる思い

19/22
前へ
/164ページ
次へ
「そうです、私からはいくら説得しようとしても、話を聞かないんです。峯野さんのことはとても頼りにしているし、なにより自分を雇ってくれたことに恩を感じて、なかなか言えないかと思います。 …あの子、今は明るくしているけど、一時期は本当自殺するんじゃないかと、ずっと心配したときもありましたよ。あれだけワールドカップに出たいと夢見ていたのに、それが一夜で全部無駄になったので…。母として、少しでも応援してあげたいです。形は違うけど、自分が育てた選手がもしワールドカップに出られたら、それはそれで又別の形で夢を叶えることだと思いますので。」 幼い頃、自分はなにかを言う度に母に非難されるだけで、親とはそもそもそんなものだと思っていた。いや、違う。親は元々、心から自分の子供の夢を、気持ちを、大切に思ってくれるものだ。これが当たり前なのに…その「当たり前」の欠片も感じられなかった自分自身が悲しい。そして、こんな親を持つ成のことが羨ましくてたまらなかった。 「…お母さん、ご心配なく。本人と話をしてみます。」 「本当に?!ありがとう、峯野さん!この恩は一生忘れません!」 「いえ、まだどんな反応をするか分かりませんので…」 「きっと母親よりは峯野さんのことを好きなんだから、無視したりはしないと思う。」 「お母さんのこともきっと無視はしてないかと…。」 「ハニー、事情を聞いてくれてありがとう。」 またマシンガントークを始めようとするその瞬間、Mr.Pinkがいい感じに入ってきた。反応に困っていた彩響にはとてもありがたいことだった。 「取り敢えずは話をしてくれ。そして、契約の件は心配しないでくれ。この場合、うちの責任なので、他の家政夫に変えて差し上げよう。」 そう、成がもしこの話にのるなら、自然に今の仕事も辞めることになる。すると今のようにずっと家で会えることは出来ないのだろう。それは少しさびしい、けど…。 「大丈夫です、せっかくのいい機会なので、がんばって説得します。」 「ありがとう、峯野さん!!頼りにしています!!!なんだったら私が代わりに家事やりますよ!」 「いいえ、それは結構です…。」
/164ページ

最初のコメントを投稿しよう!

64人が本棚に入れています
本棚に追加