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なにも特別なことは一切ないある日。
お昼を食べる時間も勿体なくて、彩響はパソコンモニターの前でコンビニのサンドイッチをもぐもぐ食べていた。隣で佐藤くんがパックジュースを渡す。
「主任、さすがに飲み物くらいは飲みましょう…。」
「ああーありがとうね。誤字脱字はどうだった?」
「いやーひどかったす。」
「まあ…しっかり見ていこうね。」
そうして最後の一口を口にした時、机の上に置いてあったスマホが鳴った。画面を確認すると知らない番号で、とりあえず緑のボタンを押すと、聞き覚えのない若い女性の声が聞こえた。
ー「こんにちは。峯野彩響様のお電話で間違いないでしょうか?」
「はい、そうですが…。」
ー「あ、はじめまして、私、マルマル出版社の編集担当二宮と申します。」
(「マルマル出版社」?)
初めて聞く名前に、彩響は自分の記憶の中を探る。しかしいくら記憶を遡ってみても、聞き覚えのない名前だった。なら、結論は一つしか無い。彩響は早速ドライな声で返事した。
「すみません、セールスには興味ないので先にお断り致します。」
ー「あ、違います!!セールスではありません。6ヶ月くらい前に、我が社に送ってくださった原稿の件でお話をしたいです。」
「え?原稿、ですか?」
ー「そうです、小説の原稿、送ってくださいましたよね?お知らせするのが遅くなって申し訳ありません。峯野様の原稿を、弊社で出版する件でお話をさせていただきたく…。」
「はい…?私の小説を?」
ー「はい、住まいが東京でしたら、出来れば直接弊社へ一度足を運んでいただければと思いますが…。」
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