掃除編-8章:私の夢、あなたの未来

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ますます話が見えなくなり、彩響は混乱するばかりだった。原稿のことも、この出版社の存在も、全く知らない。しかし話を聞いてみると、この二宮さんは自分が書いた小説の内容をはっきり把握していて、きちんと契約の話までしている。慌てた彩響はとりあえず相手に言った。 「あ、あの。今ちょっと忙しいので、改めて連絡しても大丈夫ですか?」 「もちろんでございます!では、都合の良いときにまた連絡くださいませ。」 電話を切ったあと、しばらくぼーっとして天井を見上げる。少し時間が経つと、徐々に状況が頭の中で整理されてきた。向こうはどこかで自分の原稿を読んで、それを本にしたいと言っている。一瞬小説の連載サイトで目に入ったのかと思ったけど、あの二宮さんは「メールで送られた」とはっきり言っていた。 (どういうこと?原稿を送る?いつ?私が?) いや、決してそんなことはない。あの事件のあと、原稿を別の出版社へ送るどころか、データさえ開いていない。 疑問を抱いたまま、彩響は自分の個人メールアカウントを開いた。普段はあまり使ってない個人アカウントは迷惑メールばかり溜まっていて、特に変わった様子はない。もしかして…?と思い、「送信済みメール」のリストを確認すると、自分が知らないメールの痕跡があった。 「『マルマル出版社の担当者様、原稿をお送りしますのでご確認お願いします』…?」 確かに、このアカウントから原稿を投稿した痕跡が残っていた。時期は約6っヶ月前、時間帯は…夜中の3時27分。この日付に妙に見覚えが有り、彩響は自分の手帳を確認した。そしてすぐ気づいた。この日は…。 (間違いない、この日は…成が出て行った日だ。)
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