掃除編-8章:私の夢、あなたの未来

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仕事を終え、終電に乗り、早足で家に向かう。静かで暗い玄関を過ぎ、急いで部屋の中へ入ると、早速押入れを開ける。奥に入っていたダンボールを全部取り出して、彩響はなにかを必死に探し出した。 (あ…あった!) ダンボールの奥から例のTreasure Noteが出てきた。もうずっと放置して、再び触れる勇気もなく、結局押入れの中にずっとしまっていた。学生の頃、これをベッドの下に隠して、そのまま時が流れてしまったように。あっちこっち貼られてあるテープの感触を指でなぞりながら、彩響はまた胸が痛くなるのを感じた。 濡れて、あっちこっち破られて、本来の機能はもうなくなっているけど、それでも…成が必死で助けてくれた、このノート。長年見てきた夢が潰されて、成がいなくなって、このままなにも無かったように、自分の人生も流れていくと思っていたのに…。今日の電話を受けて、再び胸が揺れるのを感じた。もしかしたら、もう一回、やり直してもいいのではないかと、そんな希望を抱いて… (そうだ、このノートは私と似てるんだ。) 涙に濡れ、ボコボコにされ、人生は元々こういうものだと自分自身を慰めて生きてきた。しかし、やはりずっと望んでいたんだと思う。長年暗闇の中で放置されても、いつか羽ばたける日を夢見ながら、ずっと待っていたこのノートのように…。 (どうする、彩響?) ーこのノートを開けると、また新しい苦難がやってくるかもしれない。 ーこれ以上、このノートに傷を増やしたくない。これ以上苦しみたくない。 複雑な感情が一気にやってきて、彩響は目をぎゅっと閉じた。母の叫び声や、気持ち悪いセクハラの誘いとか、全部耳の奥でガンガンと響く。でも、一瞬ぱっと目を開け、深く深呼吸をした。 (決めるのは…私だ。) そして、すぐノートをぱっと開いた。 インクが滲み、もう何を書いておいたのかもわからない、ひどい状況のページを捲りながら、彩響は頑張って涙を堪えた。これだけ自分は頑張ってきたんだ、これだけ自分は熱情を胸に隠してきたんだ…そんなことを改めて実感すると、悲しくて耐えられない。ゆっくりとページを全部捲り、最後に到達すると、なにか違和感のある落書きが見えた。これは、自分の書体じゃない。 (これは…。) 多少雑だけど、誠実に見える文字。その文字は、こう書かれてあった。 ー『なりたい自分に、近づいている?』
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