掃除編-8章:私の夢、あなたの未来

6/33

64人が本棚に入れています
本棚に追加
/164ページ
相変わらず嵐のような職場で、キーボードを激しく叩く音が響く。彩響が2つあるモニターでキョロキョロ目を動かすと、佐藤くんが駆けつけてきた。いつもの風景なので特に珍しいこともなく、彩響が質問する。 「どうしたの、佐藤くん?」 「しゅ、しゅ、主任!!名刺発注するとき紙の設定を間違っちゃたっす…!」 「あ、それ昨夜変更しておいたから大丈夫だよ。slack送っておいたけど見てない?」 「あ…じゃあサイズ指定ミスったのも…。」 「それもデータのサイズと違くて確認したから、大丈夫。ちゃんと今週中に届くよ。あ、もし向こうの業者さんで何か問題がない限りね。」 佐藤くんは最初驚いて、そして感動した顔で彩響の手ギュッと握る。少し大袈裟なぐらいの態度で、涙までこらえながら彼が言った。 「主任…マジ尊敬します…主任は最高っす!!」 「いや…次からはちゃんと見てね。私もよくやったミスだから体が覚えているだけ。」 「本当主任って優秀ですよね。いつになったら俺も主任のようになるんすかね…。」 「佐藤くん、もういい加減一人でもこれくらいはできるようにしないと。いつまでも私があなたの後ろについているわけじゃないから。」 「へへ、マジ主任のこと頼りにしてるんで…本当感謝っす!」 佐藤くんは彩響の言葉を特に気にせず、いつものように笑って流す。そう、佐藤くんは唯一この会社で彩響の心の頼りになってくれた人だけど、だからと言って彼のために自分の人生を諦めるわけにはいかない。 「佐藤くん、今日私午後から抜けるから。あとはよろしく。それで明日も来ない予定。」 「え?どうしたんですか?珍しいですね。」 「事情があって。とりあえず、席へ戻ってください。」 (そして、あともう少ししたらもうここには来ないと思うから。) 心の声までは言わず、彩響は佐藤くんを自分の席へ戻した。そして予告した通り、13時になった瞬間オフィスをそのまま出て、エレベータに乗った。
/164ページ

最初のコメントを投稿しよう!

64人が本棚に入れています
本棚に追加