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あまりにも期待していなかったこの状況に、彩響の思考が一瞬止まった。どうして彼がここにいるのか、そもそもこの人は本当に本人なのか、様々な考えが頭の中をぐるぐる廻る。しばらく時間が経ち、先に口を開けたのは成の方だった。
「俺に会いたがっている人がいると聞いて、ここへ来た。」
「え…」
ずっと聞きたかった、優しい声に胸が騒めく。そしてそれと同時に、今自分が言った言葉を思い出して、彩響は顔が徐々に赤くなるのを感じた。
「い、今の話…聞いてたの?」
「ああ…うん、聞こえた。」
(うそー!!!)
もうこれ以上は耐えられず、彩響はソファーから立ち上がった。その突発行動に焦った成がびっくりして聞いた。
「ど、どうした彩響?」
「私、もうここにはいられないから帰ります!」
「はあ?!俺に会いたくて来たんだろ?なんで本人が来たのにいきなり帰るんだよ?!」
「あーもう!どうでもいいから私を一人にして!」
「どうでもよくねえよ!」
「なによ!運動ばっかりしているから脳みそまで筋肉になったの?私の気持ちも察してよ、このバカ!」
ここまで叫んで、彩響はドアの方へダッシュした。恥ずかしくて、照れ臭くて、これ以上ここにいたら顔が爆発しそうだった。ドアノブに触れた瞬間、成が後ろから彩響を抱きしめた。強い力に引っ張られ、自然と手が止まる。成が自分の口を彩響の耳に近づけ、囁いた。
「…行くな、彩響。あんたは賢いから、俺の気持ちも察してくれよ…。」
「……。」
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