掃除編-8章:私の夢、あなたの未来

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普段のハキハキした声とは全く違う。どこか切なく、そして必死なその声に、彩響も抵抗するのをやめた。軽く深呼吸をして、彩響は成の顔を見た。 「…メモを見たの。あなたが、Treasure Noteに隠しておいたもの。」 「そう、それは良かった。いつ見つけてくれるか、ずっと気にしてたよ。」 成が穏やかに笑う。そうだ、この顔だ。この顔がずっと見たかったんだ…。改めて実感すると、心臓の鼓動が早くなる。 「あなたが家を出て、なにもかも嫌になって…全部諦めようと思ったの。でも、メモを見つけて、あなたがもう一回背中を押してくれた気がした…だから、ここに来たよ。」 「うん、そう言ってもらって嬉しい。それ、俺が辛い時、ずっと自分自身に聞いていたことだから。きっとあんたも俺と同じ気持ちになってくれると思ったよ。」 「そして、私のメールを使って原稿を投稿したんでしょう?」 「えーと、ごめん。でも、あの時もし俺が別の出版社へ送ってみようっと言っても、きっと断ったんだろ?まあ…それにしても勝手なことして悪かった。今更だけど、謝るよ。」 成が頭をぺっこり下げる。大きい体に似合うようで、似合わないその仕草に思わず笑ってしまった。今まで固まっていた周りの空気が少し安らいだ気がしてきた。 「あなたが勝手なことしてくれたお蔭で、あの出版社から連絡来たよ。私の原稿、本にしたいんだって。」 「マジで?!良かったじゃん!」 「私、今の仕事やめる。今すぐ私が有名作家になって、ご飯食べれるようになるとは思えないけど…。もう少し時間に余裕のある職場で自分の作品を書くよ。」 「正しい判断だと思うぜ。もうこれ以上、あんたを苦しめて、辛くさせていることに人生を浪費するなよ。」 「でも…ずっとやってきたことだから、やめた後が正直怖い。」 「大丈夫、彩響ならうまくやっていける。この俺が保証するから。」 ここまで言うと、大きい仕事を一つ終えたようで、そのまま座り込みそうになった。でも、まだ一つ残っている。こんなにも近くにいるのに、まだ遠く感じるこの人に、伝えなくてはいけないこと、それは…。 「俺に言いたいこと、まだある?」 成の質問に、彩響は大きく息を吸った。胸がいっぱいで、すぐにでも涙が出てきそうだけど、あえて目を大きく開けた。 (怖い…。) 怖い、でもやるしかない。この30年の人生の間、今こそ最も大きい勇気を出すときなのだ。嘘も偽りもないこの気持ちを、まっすぐ、この人にー 「…まだ、言いたいことがあるの。」 視線が熱くぶつかる。成は何も言わず、ただこっちをじっと見つめるだけだった。怖さと恥ずかしさを乗り越え、やっと彩響が言葉を吐き出した。 「…成、あなたが好きです。好きだから、あなたの気持ちも知りたいです。」
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