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「主任、峯野主任ー!」
後ろから聞こえてくる声に、彩響が振り向く。エレベーターではなく階段を使ったのか、汗びっしょりになった佐藤くんがこっちへ走ってきた。佐藤くんはしばらく息を弾ませ、やっと口を開けた。
「どうしたの、佐藤くん。まだ勤務中でしょう?」
「主任、ひどいですよ!挨拶くらいさせてくれてもいいじゃないっすか!」
「あ…ごめん、いろいろと忙しくて。」
なんか申し訳なくて、彩響はとりあえず笑顔で誤魔化した。それを見て佐藤くんが軽くため息をつく。姿勢を整え、佐藤くんが彩響の前に立った。
「主任、今まで本当にお世話になりました。俺、主任が今日からいないと思うと、正直不安で仕方ないんす…」
「大丈夫だよ、まだ半人前だけど、佐藤くんならうまくやっていける。こちらこそ、ヒステリックな上司でごめんね。」
「そんなことないっす!この会社で主任より仕事できる人なんていないっしょ!」
「はは、ありがとう。そう言ってもらえるなんて、会社生活無駄ではなかったね。」
「これからの計画はありますか?」
「そうだね…。」
顔を上げ、ゆっくりと周りを見回す。7年間、この会社でどれだけ辛くて、どれだけ悩んでいたんだろうか。しかし、いざここを出る時がやってくると、その辛かった記憶も少しは和らげる気がした。まだ「思い出」と呼ぶには時間が必要だけど。
「とりあえず、しばらくは休もうかな。ゆっくり寝て、美味しいものとかも食べて。」
「主任が辞めるのはすごく悲しっす…でも、俺、誰より主任が頑張ってきたことをよく知ってるんで…。応援します!」
最後まで佐藤くんは優しくて、ハキハキしていて、とても良いやつだと思った。そう、周りに敵しかいなかった職場だったけど、佐藤くんと働くのはとても楽しかった。後輩の為に、もう少し会社に残る案も考えていたが…。それはお互いのためよくないと思ったので、その結果、今日が最後の出勤になった。もちろん、後悔はない。
「佐藤くん、私はもう君の上司ではないけど、人生の先輩として、最後に一つ助言をしてもいいかな?」
「あ、はい、どうぞ!」
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