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数日後。
彩響は自分の部屋で、外出の準備をしていた。思いっきり気合いを入れ、支度をしている姿を見て、成が部屋の中へ入ってきた。
「今日なんか大事な用事でもある?」
「あるよ、だって、今日出版社の人に会って、契約をするから。」
「あ、そうか!今日か!」
「そう。だから今日は普段よりもっと気合い入れてるの。」
「そんな大事な日は、俺の秘密兵器を使ってもらわないと!」
そう言って、成は自分の部屋に戻り、なにかを持ってきた。よくよく見たら、彼の手には青いネクタイがあった。
「これ、俺が大事な面接とかあるとき、いつも使うネクタイだよ。幸運のネクタイだから、今日は特別彩響に貸してあげる。」
そう言って、成がネクタイを彩響の襟に巻いた。慣れた手つきですばやく手を動かし、綺麗な形で仕上げる。なんか、ドラマで見たような風景に、ちょっと恥ずかしくなる。あ、もちろんその場面は妻が夫にネクタイを締めてくれるシーンだったけど。
「よし、できた。いい感じ!格好いいよ、彩響!きっと素敵な本ができあがるよ。」
いや、男でもないのに、ネクタイは…と一瞬思ったけど、とても嬉しそうな成の顔を見ると、何も言えなくなる。それに、鏡の中の自分は結構格好良く見える。言われた通り、素敵な本ができあがる気がしてきた。
「まあ…慣れない格好だけど。せっかくだし、このまま行きます。」
「いいチョイスだ、彩響。そして、心を清める意味で、一緒に掃除しない?」
「掃除?どこを?」
「あそこの窓。」
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