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恥ずかしさとぎこちなさで顔を上げられない。河原塚さんは彩響の足に付いているほこりを軽く取って、もう片方のスリッパも履かせてくれた。誰かに靴を履かせてもらうなんて、ベビーの頃以来だと思う。
(このシチュエーション、このポーズ…。なんかどこかで見たことあると思ったら…。)
そうだ、これはあの有名なアニメーションの一場面ではないか!彩響はあの映画のポスターを思い出し、ふと呟いた。
「あなたは…シンデレラの王子様?」
「ーいや、俺はCinderella社から来た家政夫だ。」
あまりにもさっぱりした返事に、思わず声を出して笑ってしまった。それを見て河原塚さんも一緒にほほ笑む。一回笑うと、緊張から少し解放された気分になれた。河原塚さんが彩響の足を戻して話した。
「彩響、なんであんたがこんなに大事なデータを忘れて、靴も落としてると思う?」
「それは、忙しいから…。」
「違う、それはあんたの周りが汚いからだ。家も、この事務所も、なにもかもが汚れていて、それがこんな事故に繋がるんだ。」
「あの、河原塚さん。あなたの理論は素晴らしいかもしれません。でも今はそんな余裕がないので、後にしてください。」
また彼の「掃除説教」が始まった。確かに、彼の言う通りかもしれないが、今はそんなことをいちいち気にしている余裕はない。
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