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「これは理論なんかじゃない、事実なんだ。掃除をすると、きっと良いことが起きる。物忘れも減るし、すべてに余裕ができる。だから騙されたつもりで、俺に付き合ってみなよ。それでも嫌だったら…そのときは俺を首にすればいいだけの話だから。」
「いや、べつにそこまで言ってませんけど…。」
彩響の焦りを知るのか知らないのか、河原塚さんの説教は続く。はじめての日とほぼ変わらない内容で、それを聞くと又イライラし始める。タイミングよく佐藤くんが助け船を出してくれた。
「あの、主任、いいところ邪魔して申し訳ないんすが…。」
「だから、違います。」
「本当にもう時間なので、そろそろ行きましょう。」
佐藤くんの言葉に彩響が立ち上がる。一応部屋中を歩いて見たけど、長いズボンのおかげで、大きいスリッパがそこまで目立たない。河原塚さんが彩響の肩を軽く叩いた。
「うん、いい感じ。問題無し。」
「あ、あの…。とにかく、今日は本当にありがとうございました。二度も助けてもらって。」
彩響が感謝の言葉を伝えると、彼がにっこり笑った。
「雇用主様が困っているのに放っておく訳ないだろう?頑張って来いよ。俺、家で待ってるから。」
「あ、はい…。」
「じゃあ、俺は先に帰るぞ!」
来たときと同じく、河原塚さんはヘルメットを持って風のように消えて行った。ライダースジャケットに赤毛、バイクのヘルメット、そこに裸足…アンバランスな格好だけど彼は確かに、間違いなく…ザ・イケメンだった。
「…主任の彼氏さん、やっぱかっけー」
「だから、違います!」
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