掃除編-3章:大掃除、スタート!

7/23

64人が本棚に入れています
本棚に追加
/164ページ
下駄箱の中を整理して、外側も雑巾で綺麗に拭き取る。あっちこっち転がっていた靴たちは、広くなった玄関で自分らの居場所を見つけた。数枚用意した雑巾が全部真っ黒に染まる頃、やっと玄関の掃除が終わった。 「一回外に出て入ってきてみなよ。」 「え、わざわざ?」 「せっかくだし、早く!」 成に急かされ、彩響は一旦マンションの廊下へ出た。玄関のドアノブを回し、中へ入ると、成が明るい声で迎えてくれた。 「お帰り、彩響!どう、この家の印象は?」 外から入ってくる日差しと一体になり、地面のタイルがキラキラと光る。適当に放置されていたものが一気になくなり、その分空間が広くなったように見えた。あっちこっち見渡す彩響に成が声をかける。 「どう?なんか入った瞬間気持ちよくならない?」 今の感じるこの不思議な感情をどう表現すればいいのか、これを「気持ちいい」と表現していいのか、彩響は正直分からなかった。なんだか寂しい気持ちもあり、なんだか空しい気持ちもあり…。しかし、これはいつもとは違う。いつも会社でへとへとになり、早く家に帰って休みたい…と思うけど、ここへ入った瞬間逆にもっと疲れる気分になっていた。 「…なんかよく分からないけど…。嫌な気分じゃないと思う。」 「今までずっと散らかっていて、それに慣れていたのに、いきなり全部消えて変な気分になってるんだよ。でもすぐなれるよ。掃除はドラッグと一緒で、一回このキラキラにはまると絶対やめられなくなるから。」 「…ドラッグしてたの?」 「例えだよ、例え。」 なんでわざわざその単語を選んだの?一瞬疑ったが、彩響は聞くのをやめた。過去になにがあろうが、今は自分の専属家政夫だ。あ、もちろん普通の家政婦とはちょっと違うかもしれないが…。 「さて、次はトイレ掃除をしようと思うが…。」 成の顔にいたずらな微笑が浮かぶ。その笑顔の意味にすぐ気付かず、じっと見ていた彩響の頭の中でなにかが閃いた。まさか、こいつー。 「まさか…。」 「あ、気付いた?そう、便器掃除を素手でするんだ。」 「はあ?!」
/164ページ

最初のコメントを投稿しよう!

64人が本棚に入れています
本棚に追加