掃除編-3章:大掃除、スタート!

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彩響の反応に成がにっこり笑う。その意味深な笑顔に、彩響は呆れを超えた焦りを感じた。なにを言ってるんだ、こいつは?唖然としている中、ヤンキー家政夫の話は続く。 「今回だけでいい。次回からは俺がするから。」 「一回だけでも嫌です!なんで、トイレ掃除を素手でするの?でいうか、一体どこの誰が自分の雇用主にトイレ掃除をさせるの?!」 「まあそんなこと言わずに、俺の話一旦聞いてみなよ。」 あー聞きたくない話だ。便器を素手で洗うとか、どんな理由があったとしても納得できそうにない。 「トイレって、人間が最も自分の汚いものを出すところだろ?そんなところを素手で掃除すると、自然と心が謙虚になるんだよ。自然と丸い性格になる。細かいことでいちいちイライラしなくなる。」 「そんなことしなくても人は謙虚になれるし、丸い性格になれます。」 「自分が丸い性格だと思う?」 「…さり気なく私のことディスってるね。」 「違うよ。あんたはきっと元はいい女だけど、いろいろと環境が辛いから疲れているだけだ。そろそろ細かい心配から開放されて、心に余裕を持ちたくないか?マジでトイレ掃除の効果抜群だぜ。大丈夫、最初の一歩は難しいだけで、一旦手を出せばなんとなくできるもんさ。せっかく俺の掃除に付き合うんだから、やれることはやっておこうぜ。次は絶対させないから。」 こいつはヤンキーだけど、意外と人を口説くのが得意かもしれない。なんだかんだ文句を言ってみても、結局はこいつの言う通り流れて行く。彩響は悲壮な覚悟でトイレのドアを開けた。そこにある、白い便器、そして…。 「はあ…。」 どうして自分は自分のお金を払って、自分でこんなことをしようとしているんだ?自分の行動が自分でも理解できない。しかしやつの言葉には妙な力があり、言われたことをそのままするようになる。彩響は長いため息をつき、結局端っこに置いてあったスポンジを手に取った。もちろん、素手で。 「…ここまでやってなにもおきなかったら、マジであいつ首にしてやる!」 こうして、彩響は人生初「素手トイレ掃除」を開催するのであった。
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