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便器の掃除はなんとか終わった。最初中へ手を突っ込むときはかなりの抵抗があったが、いざ入れてみるとなんとか進んだ。おでこの汗を拭いて外へ出ると、成が「おつかれ」と歓迎してくれた。それを見た彩響はただため息をつく。
「どうして『お疲れ』というのが私ではないのか…。」
「まあまあ、そう悲しく思うなよ。」
「しかも特に気持ちの変化を感じませんが?」
「焦るなよ、そのうち効果を感じるようになるぜ。」
「はあ…。」
「さあ、次は洗面台だ!さっさと動く!」
「え?ええ…?!」
また手を引っ張られ、今度は洗面台の方へ向かった。成の指導の下、ゴシゴシと白い洗面台を洗う。今までずっと放置していた分、元の白さに戻すには結構力が必要だったが…お湯とゴシゴシの力で、気持ちの良いピカピカを取り戻せることができた。排水口の網まで変えると、成が満足した顔で言った。
「これでこの家に溜まっていた悪い運気は、ここから全部流れていく。玄関からはいい運気が流れてきて、悪い運気は消えるから、これからはきっといい運気だけが残るよ。」
また例の「風水」の話ですか…。おそらく、彼は相当このような話を好んでいるに違いない。彩響からすると、目に見えないものや、科学で証明できないものは信用できない主義ではあるが…。雑巾で引き続き洗面台の鏡を拭こうとすると、成が彩響を止めた。
「ちょっと待って。鏡を拭くときは必ず言わなきゃいけない言葉があるんだ。」
「…なんの言葉?」
すると成が後ろから腰に片手を回して、片手はタオルを握った自分の手の上に重ねる。慌てて振り向くと、彼が言った。
「ほら、俺じゃなく鏡の中の自分を見なよ。」
「…あの…これもなんかあなたが言う「大掃除」の過程の一つなの?」
「そう、だから前を見て。」
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