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そのまま母は両手でノートを破り始めた。薄い紙はなんの抵抗もできず、小さい欠片になって床に落ちた。彩響はなにも言えず、ただそれを見守ることしかできなかった。心が痛すぎて、叩かれたところの痛みは感じられなかった。
母はこまめにノートを破り、うまく破れなかったカバーはそのまま娘の顔に投げた。また叩かれても、彩響は小揺るぎもしなかった。
「さっさと渡せば叩かれることもないでしょう。まったく、本当にバカだね。」
「…。」
「全部あんたのためだから。これ全部片付けて夕食の準備手伝いなさい。」
「…はい。」
紙の欠片は細かすぎて、もうどうにもならない状態になっていた。彩響はなにも言わず、自分の夢の欠片を全部ゴミ袋へ入れた。涙が出そうになったけど、必死で堪えた。
ー絶対泣かない。
ー絶対泣かない、泣いたら負けだ。
数日後、彩響はまたノートを買った。今回は母にバレないよう、うまく隠した。幸い母の目に入ることなく、もうこのことで母と揉めることはなかった。
そして、ときが流れ、徐々に年をとり、大人になり、就職してー
(…現在にいたる。)
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