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気持ちいい夜風が頬に当たる。コンビニで買ったアイスを食べながら、二人は線路沿いを歩いた。いつも通勤で使っている道だけど、なんだか今日は特別に感じる。ヤンキー家政夫さんは彩響の隣でさっさと2つ目のアイスを開封した。ジロジロ見ていると、彼が聞いてきた。
「なんだ、だから2つにしとけって言ったのに。」
「いや、アイスは一つで結構です。ハーゲンダッツ、ありがとう。」
「どういたしまして。」
成はそう言って、持っていたアイスバーを瞬殺した。すごい食べっぷりだな?と彩響が感心すると、成が明るい声で質問した。
「ーで、彩響はなにが好きなの?」
「え?どうしたの、いきなり。」
「言ったじゃん、プライベートな話もしたいって。好きな食べ物はなに?趣味とかある?」
これは、合コンに出てきそうな質問だな…。彩響はアイスの残りを全部口の中に入れ、答えた。
「好きな食べ物は…ビーフシチューかな…。」
「デミグラスソースのやつ?」
「そう。」
「他は?趣味とかはある?」
「本読むことかな…。最近あまり読んでないけど。」
「まあ、あれだけ仕事していると時間ないもんな。兄弟はいる?」
「いないよ、私だけ。…あなたは?兄弟いるの?」
多少わがままな部分もあるけど、こいつはとてもいい性格をしていると思う。だからふと気になった。こんな穏やかな性格を持った人は、どんな家庭で育ったのか。
「俺?俺、妹がいる。7歳年下で、今大学生。」
「へえ…結構年離れているね。」
「小学校の時、あいつのおむつ替えてあげたこと覚えてる。小さかったのに、いつの間にか大きくなってさ。最近彼氏できたっぽい。」
「そう…ご両親は?」
「親父はサラリーマン。お袋は専業主婦。たまにレジのバイトとかしてる。ふたりともまあ普通の人たちだよ。」
(その「普通」というのが最も珍しいんだよ。)
夫婦の仲は円満で、特に目立つ事件もなく、特に子どもたちが大きい問題を起こすこともない、とても普通の家庭。そんな家庭で育ったからこそ、こんな明るく、こんな丸い性格になれたんだろうか。
「家政夫になると言った時、両親の反応はどうだった?」
「うちの親?いや、うちはいつだって放任主義だから、特になにも言ってないよ。『あんたの人生だし好きにしなさい』と言っただけ。いつだってそんな感じ。」
「いいご両親だね。」
「そうか?普通だと思うけど。」
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