64人が本棚に入れています
本棚に追加
/164ページ
いきなり名前を呼ばれ、ぱっと顔をあげる。成が顔を近づけ、声をかける。
「彩響、本当に俺を選んでくれてありがとう。男を入居家政夫にするなんて、俺が言うのもあれだけど、簡単に決められることではなかったんだと思う。」
「どうしたの、いきなり。」
「いや、本当にこれは言っておきたかったんだ。こんないい雇用主のために働くことができて、俺は恵まれていると思う。本当にありがとな。」
改めてこんなことを言われると、なんだかくすぐったくなる。彩響は視線をそらし、気まずそうに頬をこすった。
「そんな、私も必要だから雇っただけで…。」
「うん、そう言うと思った。でも俺、本当に感謝している。だから彩響、あんたもなにかあったら遠慮せず言ってくれ。俺、頭悪いし、力になれないかもしれないけど…聞くだけなら俺だってできるから。だから…」
「…?」
「だから、首にしないでくれ、一ヶ月経っても。」
その一言に、彩響は思わず笑ってしまった。そうか、もうバレていたんだ。彩響の笑いに成が真剣な顔で聞く。
「今、笑うところ?」
「ふっ…ごめんなさい、そんな真面目な顔初めて見たから。」
「…で、答えは?俺、今日で首なの?」
最初のコメントを投稿しよう!