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「お帰り、今日も遅かっ…うん?」
「ただいま。ごめん、今ちょっと急いでるの。」
家政夫さんの挨拶をスルーして、彩響は真っ先に自分の部屋へ入った。荷物を適当におろして、早速ベッドの下からノートを出す。頭の中の内容が消える前に、早く書かないと…急いで手を動かしていると、成がドアの隙間からチラッと顔を出した。
「ご飯出来てるぞ?」
「後にしてください。」
彩響の姿を見て、成は意味深な笑顔を見せた。そしてなにも言わず、そのままドアを閉めた。
考え込んでいた話を全部書くには少し時間がかかった。書き込みが一段落して、リビングへ出ると、成が食卓に大きい鍋を運んできた。中には彩響の大好物が入っていた。
「あ、ビーフシチュー…。」
「これ好きって言ったから、作ってみたよ。」
「ありがとう、わざわざ。手のかかるやつなのに。」
「いえいえ、早く食おうぜ。」
美味しそうな匂いが食欲をそそる。成が皿に移してくれたシチューを一口食べた瞬間、もうそこからスプーンを止められなくなった。もぐもぐと食べていると、成が微笑ましく自分を見ているのに気付いた。ちょっと気まずくなり、一旦手を止めて聞いた。
「…なに?」
「うん?いや、よく食べてくれるのが嬉しくて。」
本当、自分の感情に素直な奴だなーと思いながら、彩響は食べ続けた。彩響のお皿が空になる頃、再び成が質問する。
「今日も仕事大変だった?」
「仕事?まあ、いつものことだけど…でも今日はちょっと違ったかも。」
「お、てことは…『掃除の力』を早速実感したのかな?」
(『掃除の力』?)
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