掃除編-4章:ヤンキーにも過去はある

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全く聞いたことのない言葉だけど、確かに、彼の言う通りかもしれない。彩響は肯定の意味で首を縦に振った。 「そうかも。今日部下が大きいミスをしたけど、意外に落ち着いて話を聞くことができたんだよね…。普段だったらブチ切れて気が済むまで叫んでたのに。」 「そんなすぐキレる人だったの?」 「私が責任を持っている以上、自然に厳しい性格になるんだよ。」 「まあ、それはいいことだ。でも俺が今言ってるのは、小説執筆のこと。さっきなんか夢中になってノートに書いていたじゃん。」 彼が言っているのはTreasure Noteのことだ。見られていたのが少し恥ずかしくなったが、彩響は素直に電車での出来事を話した。 「電車でふと思い出して、いい話のネタになりそうだったから…忘れる前に書こうと思っただけ。」 「そういうことの重なりが結局作品に繋がるんじゃないの?やっぱり、掃除の力が効いているんだよ。」 「大げさです。そんな簡単に小説とか書ける訳ないでしょう。」 「『掃除』はさ、単純に汚いものを綺麗にするだけの行為に見えるけど、実はそれだけじゃない。なにかを綺麗にすることで自分の心も磨くことになるし、あんたのように、忘れていた大事ななにかを思い出させたりもする。結局掃除することで、自分の人生になにが一番大事なのか分かるようになるんだ。」 (自分の人生で、一番大事なこと…。) 『そんなもん、お金に決まっているー!』とはっきり言える。今でもそれは変わらない。でも、少しずつ思い始めている。『お金は大事だけど、大事なものはお金だけではない』、と。 (…だからとは言え、今すぐ何かを書き出せる訳がない。そんないきなり人生Easy modeになるくらいなら、私もこんな苦労してないっつーの。) 成の話は何もかもが希望的で、楽観的だ。彼の話を聞いていると、本当になにもかもがうまくいくような気がする。ふとこんなにポジティブな彼は、掃除で何を得たのか、知りたくなった。
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