掃除編-4章:ヤンキーにも過去はある

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「そんなこと言ってる自分は、掃除で大事なものを見つけたの?」 「もちろん。俺が経験しているから自信持って言える。俺の人生は掃除で変わってる。」 「…変わる前は、どんな感じだったの?」 「俺?俺は普通だよ。俺、あんたのように物書きとかは全然素質ないし、勉強もダメだったし、マジ普通なやつだったよ。今もそうだけど。」 そんなこと言うわりには、何かありそうだけど…。言いたくなさそうな雰囲気を感じ、彩響は口を閉じた。一瞬錯覚しそうになったが、彼は労働者で、自分は雇用主だ。これ以上労働者をいじめる悪徳雇用主にはなりたくない。成は何もなかったように話題を変えた。 「俺、本読むのあまり好きじゃないけど、あんたが書くのなら読んでみたいな。」 「はい?いや、人に見せるようなものでもないし、そもそも本になってません。」 「じゃあ、本になったら読ませてくれるの?あ、俺が勝手に書店で買って読めばいいのか。」 「だから、本になりませんてば。」 「なんだよ、想像くらい良いじゃん。格好いいだろ?書店にさ、あんたの名前が書かれている本がこう、並んでて…ペンネームとかある?俺が付けてあげようか?」 「いえ、結構です。」 他愛のない言葉を交わし、彩響は自分の部屋で寝る支度をした。ベッドで横になり、机の上においてあったTreasure Noteを手に取る。さっき書いた内容を読み直しながら、成の言葉も一緒に思い出した。 ー『格好いいだろ?書店にさ、あんたの名前が書かれている本がこう、並んでいて…』 「…そう、確かに格好いいね。」 少し興奮していた成の顔を思い出すと、なんだか笑ってしまう。彩響はノートをベッドの下へ戻し、眠りに就いた。
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