掃除編-5章:嵐のあと

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背中で冷たい汗が流れる。焦って声が出ない。母はノートを手に取り、軽くページを捲る。それがなんなのか気づくには、そこまで長い時間は必要なかった。 「あんた、まだこんなふざけたことをしていたの??」 「ノートを、返してください。お母さん。」 「こんなバカな真似はやめなさいって、お母さん言ってなかった?」 その言葉に、眠っていた記憶が甦る。母の叫び声、叩かれたときの痛み。それと同時に、心の奥から徐々に「怒り」という名の感情も顔を出した。それでも彩響は大声を出さず、ただ静かに、質問し返した。 「お母さんが私の夢をずたずたにした、あのノートのことですか?」 「夢?はっ、あんた一体何歳なの?その歳になってもまだ『夢』とか言ってる?あんたごときが作家になれるはずないでしょう?」 「作家になるとは一言も言ってません。だからそのノート返してください。」 「いい?『夢』というのはね、「医者になる」とか、「弁護士になる」とか、もしくは「良いお嫁さんになります」とか。そういうのを夢というの。あんたのように、現実も知らずただ妄想するのは夢ではありません、ただのバカなの!」 「いいから、早くそれを返して!!!」 手を伸ばし、母からノートを奪おうとするが、母はそう簡単には渡さなかった。思いっきり突き飛ばされ、彩響は椅子と一緒に床へ倒れた。諦めず立ち上がると、今度はノートで顔を叩かれる。一瞬目の前が真っ白になり、周りが地震でも来たように揺れた。又痛い記憶が顔を出す。どうしても守れなかった、あのときの切ない夢…。 ーあの時と一緒だ。なにも抵抗できなかった、ただの弱い女の子。 (違う、私はもうただ泣くだけの女の子じゃない、もうあのときとは違う…!) 「返して、早く!!!!」 「あんたのような愚かなやつはもっと叩かれるべきよ、じゃないと永遠にこの有様でしょ!私があれだけ教えたのに、まだ分からないの?!」 「私はあんたのおもちゃでも、なんでもない!私はお母さんじゃない、お母さんが望む人生を私に強要しないで!!もう十分お母さんに言われた通り「現実」を見て生きてきたでしょ!」
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