64人が本棚に入れています
本棚に追加
ー「何買うの?」
「特には決めてないけど…ここ、好きなんだよね。昔は大きくなったら小さい図書館を家の中に作りたいと思ってた。」
「へえー本当に好きなんだな、本。」
その日は用事があり、この周辺まで二人で出て、そしてこの本屋に入った。普段は自分が作っている雑誌のリサーチで来ることがほとんどだが…今日は普通に小説コーナーをウロウロする。そして目に入った本を一冊手に取った。
「『嵐が丘』…これ、私の一番好きな本。昔はこれ、違う出版社のやつ全部揃えたくて、でもお金がなかったから我慢してたんだ。」
「俺、本全く詳しくないけど、あんたがすげー本好きなのは分かる。いい笑顔しているからな。」
成の言葉になんだか恥ずかしくなり、彩響は視線をそらす。彩響の反応を見て成もニッコリ笑い、本棚を軽く触れた。
「いつかはあんたの本もここに並ぶようになって、女の子がここに来て、こう言うんだ。『私、峯野彩響さんの本好き!』」
「なにそれ、なんの妄想?」
「なんで?妄想だと決めつけるなよ。想像するだけだから、あんたも想像してみなよ。」
言われた通り、彩響も本棚に自分の名前が見える日々を想像する。そんな日がくるわけないけど、そう、想像は自由だから。表紙はシンプルで、文字のフォントは見やすく、でも独特なもので…想像が具体的になると、自然に微笑みがにじむ。
「いつかはそういう日が来るよ、彩響。未来は誰も知らないものだから、今できるはずがないと断言するな。あんたならできるよ、きっと。」
ー(あいつは、どうしてあんなに根拠もなくポジティブになれるんだろ…。幼少の頃にスーパーポジティブの実でも食べているんだろうか…)
成のおかげで、少しは明るい気分になれたのは事実だった。しかし、どう考えても自分がそう簡単に本を出せるとは思えない。
持っていた本を本棚に返し、長くため息をつくと、誰かが自分の肩を軽く叩くのを感じた。驚いて振り向くと、そこにはMr. Pinkが立っていた。
最初のコメントを投稿しよう!