掃除編-5章:嵐のあと

17/20
前へ
/164ページ
次へ
電車から降り、急いでマンションに向かう。エレベータにも乗らず階段を登ると、マンションの廊下に誰かがうずくまっているのが見えた。暗い中でもその赤毛や、大きい体格でその人が誰なのかすぐ分かる。足音を聞いた彼が顔を上げ、彩響の顔を見た瞬間、ぱっと立ち上がった。そしてそのままこっちへ走りー 「…彩響!!」 強い力でいきなり抱きしめられ、彩響の体が一瞬揺れた。どれくらい外で待っていたんだろう、肌で感じる彼の服が冷たい。でも…。 「一体どこにいたんだ?携帯も、財布も持たずに、俺がどれだけ心配したと思う?!」 ーでも、彼の思いは世界一温かいもので、彩響はニッコリと微笑んだ。 「…ごめんなさい。でも、何事もなかったよ。ちょっと歩いて、Mr. Pinkのところでお茶して、戻ってきた。」 「Mr. Pink?? うちの社長の?」 「うん、だから大丈夫。…お母さんは?」 彩響の質問に成が長いため息をつく。その反応を見て彼がどれほど苦労したのか、すぐ分かった。一旦離れ、彩響は彼の言葉を待った。 「お母さんはその後、俺が追い出した。」 「おとなしく帰ったの?」 「最初はすごい抵抗して、『これ以上暴れたら警察を呼ぶ』と言ったら、『追い出されるのはお前だ』と言われて。結局は力ずくで玄関の外まで追い出した。鍵閉めたら、ドア叩いてちょっと暴れてたけど…結局は帰ったよ。」 「…ごめん、大変だったでしょう。」 「いいや、30年もあんな性格破綻者の娘やっていたあんたに比べたら、大したことではない。…あ、あの、ごめん。人の母親を勝手にディスって…。」
/164ページ

最初のコメントを投稿しよう!

64人が本棚に入れています
本棚に追加