掃除編-5章:嵐のあと

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眉をひそめ、母の悪口を言っていた成は一瞬表情を変え彩響に謝った。これもきっと彼の優しい一面だと思われる。彩響は顔を横に振った。 「いいえ、謝らないで。むしろ…スッキリしている。今まで、誰もそんなこと言ってくれなかったから。」 「…疲れただろう?早く中へ入ろう。」 成の手に引っ張られ、彩響は玄関の中へ入った。母が暴れた痕跡は全くなく、綺麗に片付けられていて、本当になにもなかったように元に戻っていた。成は彩響をソファ−に座らせ、自分の部屋からなにかを持ってきた。それを見た瞬間、彩響は泣きそうになってしまった。 「…これ、俺がドライヤーで乾かして、なんとか修理はしてみたけど…完璧には回復できなかった。ごめん。」 成が渡したのは、災難にあったTreasure Noteだった。あっちこっちインクが滲み、ページもボロボロになっていて、もうノートとしての機能はなくなっている。それでも必死で治そうとしたセロハンテープの痕跡が切なくて、でも嬉しくてー。胸がいっぱいになり、彩響は必死で涙をこらえた。 「…彩響。」 成が隣に座り、彩響の手をにぎる。とても暖かい思いが、その手から伝わってきた。 「今まで辛かったな。でも、大丈夫。もう誰もあんたを責めたりしない。もしお母さんが来たら、俺が真っ先に追い出してやるよ。だから…なんかあったら言ってくれ。話を聞くくらいなら、俺でもできる。むしろ、それくらいはさせてほしい。」 「…どうして、ここまでしてくれるの?私はあなたにとって、ただの雇用主、それ以上でもそれ以下でもないでしょう?」 「おい、まだそんなこと言うのかよ。いいじゃん、もうどうだって。一人の人間として、頑張っている人間を応援したいと思うのは別におかしいことでもなんでもないだろ。」 そうだ、こいつはいつもそうだった。性別も、職業も、何にもこだわらず、ただ一人の人間として自分を応援してくれる。常に心に余裕があって、なにがあってもブレずに相手を信頼できる。そんな強い心を彩響もずっと持ちたいと思っていた。 「…私、中学生の頃、全国作文大会で優勝したことがあったの。」
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