掃除編-6章:近づく距離、揺れる思い

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必死で業務を終わらせ、急いで家に帰ってくる。電車に乗っている時間も、ご飯を食べる時間も惜しい。メイン武器はスマートフォンと軽いノートパソコンで、たまには白いノートに直接書き出したりもする。そして、最も心強い戦力は…。 「あ、彩響、今日もお疲れ様。」 夜中の2時なのに、成はまだ起きている。彩響が執筆を始めてからはずっとこんな感じだ。いつ寝ているのか気になるが、成はいつもの顔で聞いてきた。 「なんか食べる?今日Youtube見たんだけど、50kcalで収まる夜食があるらしいよ。今日はそれでどう?」 「ありがとう、ちょっと行き詰まってしまって。休憩しにきたよ。」 「じゃあ、鍋でも拭く??」 「鍋?」 成が引き出しから鍋を持ってきた。そしてテーブルの上においてあった雑巾を渡す。成も同じく鍋と雑巾を取り、そのまま鍋を拭きはじめた。 「ほら、こうして綺麗に拭くの。すると、気持ちの整理ができて、まとまる。」 「…これもあなたのその「掃除理論」に入るもの?」 「まあね。それに、これには大事なメリットがある。」 「メリット?」 「鍋がピカピカになると、すげー気持ち良い!まさにエクスタシー!!」 (…変態だ、ここに変態がいる…。) そうだ、今更なにを言う、彼は元々掃除変態だった。しかし、その変態さんに何度も助けられたのも事実だ。彩響は何も言わず、同じく鍋を拭きはじめた。 「こう、かな?」 「あ、こうして、円を描く感じで。そうそう。」 「全く、30にもなってこんな夜中に鍋拭くことになるとは思わなかったわ…。」 「お互い様だよ。まさか、夜中の2時に鍋拭く生活とか、想像もしてなかったぜ。」 「いや、家政夫になった時点で少しは想像してたのでは…?」 「……」 「……」 ー鍋を拭いて、徹夜を数回して、そしてまた原稿を書く。 そんなことの繰り返しが重なり、又重なり、そして…。 「…お…終わった…?」
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