掃除編-6章:近づく距離、揺れる思い

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以前の出来事もあり、なるべく触れないようにはしていたけど、やはり気になる。彩響は恐る恐る口を開けた。 「あのね、なんでサッカーやめたのか聞いていい?」 「なんだ、聞きたい?」 意外と軽い反応が返ってきた。彩響が頷くと、成がそのまま腕を伸ばし、後ろへ体を倒した。夜空を眺め、彼が話す。 「そうだな、前に聞かれたときはなんかイライラしてたから、俺の中で整理ができてなかったんだと思うけど、今日は意外と大丈夫。だから言える。」 「…その、あの時は…ごめんなさい。」 「いいよいいよ、気にするな。俺さ、昔から運動できて、小学校の頃からサッカー始めたんだよ。その時からずっと俺の人生はサッカーしかない、サッカー選手になるしかないと思ってて。高校の進学も大学の進学も全部サッカーができるところを選んだ。」 ジュニアから活躍して、プロのサッカーチームにスカウトされ、そのまま選手になった。実績も出して、何回もゴールを決めた。MVPに選ばれるシーズンもあった。だから、このまま、ずっとサッカー選手としての時間が永遠に続くと信じていた。走りすぎて心臓麻痺とか起こしたりしても、それはきっとグラウンドの上だと、そう信じていたー。
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