ひまわりを花束に

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ひまわりを花束に

「いらっしゃいませ」 自動ドアの音に反応して、私は笑顔で挨拶をする。お客さんがアレンジメントのショーケースに向かうのを見届けて、私は、再び、注文の花束の制作に取り掛かる。  5月10日の恋人の誕生日に渡すという花束。『プロポーズをするから、花言葉にこだわった少し豪華な花束を』との注文を受けたのは、先週のことだった。お相手は、明るく元気な女性とのことだったので、私がまず選んだのは、ひまわり。 花言葉は「あなただけを見つめてる」 そこに、マーガレットの「真実の愛」、ブルースターの「信じ合う心」、かすみ草の「清らかな心」などを添えていく。  花束を仕上げると、カードを手に取り、お客様にお渡しできるように花言葉を記す。 プロポーズ、成功するといいな。 「お、綺麗にできたな」 声を掛けてきたのは、店長の藤田 秀一(ふじた しゅういち)さん。身長155㎝の私より頭2つ分くらい大きいんじゃないかと思うような背の高い人で、モデルさんのようなイケメンさん。 3年前、この花屋をオープンする時に、何の資格も持たないフリーターだった私を雇ってくれた恩人だ。 「これで、大丈夫でしょうか?」 レジ後ろのバケツに生けてある、ラッピング前の花束に目をやって尋ねる。 「ああ、上出来。  ひまわりの明るい黄色にブルースターの  水色がいい差し色になってる。バランスも  いい。ほんと、うまくなったな」 嬉しい。 店長は、花なんて触ったこともなかった私に、一から花屋のあれこれを教えてくれた。 だから、私は、一生この花屋で働くって決めたんだ。 結婚とか、家庭とか、そんなの、私には永遠にできないから……
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