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数百年後、その沈黙を一人の男が破った。彼の名前はグトール。一代で帝国を築き上げて人々から英雄と呼ばれていた。その勢力は増す一方だった。
「私は英雄となった。しかし、私にはまだ手に入れるべきものがある。それは、永遠の命だ。私は神となるのだ」
「やめておけ。あの森に足を踏み入れてはならぬ。二度と人間の世界へ戻ることはできなくなる」
帝国で最も信頼を寄せる知識人が忠告した。
「なあに、神の世界にでも連れていかれるとでも言うのか。その霊とやらを退治し、不死の実を手に入れてやろうぞ」
グトールは、数百の兵を率い、神秘の森へと進んで行った。
森の中に入るなり、薄暗くなった。木々がこれぞとばかり生い茂り、太陽光をほとんど、全てと言っていいほど遮っている。進めば進むほど暗さは増し、数キロメートル進んだところで、完全に光が消えた。
「灯りを」
グトールの声に従い、兵達はそれぞれ松明に火をつけた。すると周りには、数百ほどあろうか、白骨化した死体が沢山転がっていることが分かった。かつてここで戦が起こったかのようだ。
「恐れるではない。前へ進め」
兵達は前進し続けた。その時、パキュっと音がした。一人の兵がその死体の骨を踏み砕いたようだ。
「・・・・・・」
全員が静まりかえった。不吉な予感がした。パキュ、パリパリ・・・。パリパリパリパリ・・・。骨の砕けるような音が辺りに広がる。その時、バタンと何かが倒れる音がした。一人の兵が悲鳴をあげた。隣に立っていた兵が突然首から血を吹出して倒れ、そのまま息絶えたのだ。悲鳴をあげた兵はパニック状態となり、進んできた道を逆走して逃げ出した。
「この臆病者。戻らぬか」
グトールの叫び声は虚しく響きわたるのみで、その兵は姿を消した。今度は別の場所から悲鳴が上がる。その光景は目にすることが出来た。一人の兵が死体に襲われている。羽交い締めにされ、そのまま暗闇へと引きずられていった。パリパリパリ・・・。数百の死体が動き出し、一団の元へと差し迫って来た。
「皆の者、戦うのだ」
グトールの言葉で、一団は一斉に戦い始めた。ある兵は剣を振り回し、死体の骨を砕いた。ある兵は、体当りで死体を突き飛ばし、体をばらばらにさせた。また、複数の死体に襲われ下敷きになる兵、折れた骨の尖った先で腹を刺される兵もいた。
「グトール様。このままでは全滅してしまうかもしれません。まだ戦っていない我々だけでもこの場から逃れましょう」
「・・・仕方あるまい」
数十の兵を率い、グトールは立ち去った。その時、グトールの背中に突然激痛が走った。
森の足を踏み入れて間もない間に、多数の兵を失ってしまった。しかし、目的は達成しなくてはならない。
「グトール様、背中が」
グトールの背中には大きな引掻き傷があった。
「早く手当てを」
グトールは上半身に包帯を巻いた。
「先へ進もう」
一団は歩きだした。
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