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「……でも」
それまで照れ隠しなのか明後日の方向を向いていた彼が、やっと、わたしの目をまっすぐ見た。
「ぼく、ゆっくり待っていたいんです。
やっぱりぼくは、明日香さん、あなたが好きだから。
……ぼくは、ずっとあの店にいますから。またいつでも、気が向いたら、いらしてください。
絶対、絶対、待ってますから」
そう言って初瀬さんは、ふとわたしから目線を反らす。
テーブルの上には、ちょうどコーヒーが並べられているところだった。
「……それは、つまり、どういうことなんですか」
わたしはいてもたってもいられなくなって、彼にきく。
初瀬さんはそんなわたしの表情に、見つかる言葉を丁寧に捜しているところだった。
「えぇと……、明日香さん」
呼ばれて、思わず身構える。
「ぼくは、明日香さんのことが、好きです。
でも、返事しようとか、思わないでください。
ただ、ぼくは、ずっとハーベイウォールバンガーにいます。
ぼくのことなんて気にしないで、仕事の話でもまた新しい恋の話でもなんでもしに来てください。
それでぼくは幸せですから。
だから……これからも、いらしてくれて、今まで通りお話していただけると嬉しいです」
そんな話を聞いて、わたしは面を食らった。
この前はあれだけ強気なこといったくせに、あの言葉は一体なんだったのか。
あの言葉の通り一週間悩み倒したわたしは?
……さまざまな思いが頭をかけめぐったけれど、やっぱり初瀬さんに好きなんて言われると、思わず胸がときめいてしまう。
思えばいまの彼は、失恋一週間のわたしに最大限に気をつかってくれているのだ。
それなら……こんどはこっちのターンですよ、初瀬さん。
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