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彼はさっきの言葉を言い終わると、気まずそうに窓の外をみていた。
休日の駅前。野球場が近くにあるせいか、こども連れでごった返している。
走っていく一人の野球少年を目でおう初瀬さんに、わたしはおもむろに口を開いた。
「そう言っていただけて、とても嬉しいです。ありがとうございます」
わたしの言葉に、彼はこっちをむいて決まり悪そうに笑う。
わたしは続けた。
「で、今日したいお話のことなんですけど。
……正直ちょっと迷ってたんですけど、初瀬さんがさっきおっしゃってくださったんで、お話ししたいと」
そんなわたしの言葉に、初瀬さんは少しだけ首をかしげる。
「と、いいますと……」
そんな彼の言葉に、わたしは内心維持悪く笑う。
「昨日今日の話で大変申し訳ないんですが、新しい恋の相談です。
ツチモリの件は自分なりにもう終わりまして、『心変わり早っ!』とか思われるかもしれないんですけど、また気になる人ができたんです」
そんなわたしのことばに、彼は一瞬だけ瞳孔を開く。
しかし、すぐいつものスマイルに戻った。
そんな彼はもう、すっかり「ハーベイウォールバンガーのバーテンダー」だった。
「なるほど。いや、いいことです。
ぼくがお力になれるかはわかりませんが、お話しいただけると嬉しいです」
運ばれてきたコーヒーをブラックのまま一口すすると、ニコニコとわたしの次の言葉を待っていた。
わたしは半ば挑戦的に、口を開く。
「一週間ちょっとの短い間ですが、それでも自分なりに考え抜いたんです。
それで、ツチモリの件は、なんかちょっと違ったなぁって。
にもかかわらず、わたしは今までツチモリのことしか考えてなかったなぁと。
そうして反省した結果、もっと周りを見渡すことにしたんです」
初瀬さんの適度な相づちは、ついわたしを饒舌にさせる。
けど今日は、わたしの舌を回らせたことを、ちょっぴり後悔すればいいと思いながら。
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