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駅の改札をまたくぐり、わたしたちは来た道をまた歩き出す。
駅から間もなくのマンションの5階が、初瀬さんの部屋だった。
心なしか言葉少な目に、わたしたちはエレベーターを降りる。
「ここです。汚くて申し訳ないんですけど……」
初瀬さんがてへへと笑うと、鍵を差し込んだ。
鍵を回しながら、ボソリと呟く。
「あの」
「……なんですか?」
「明日香さんがホームで言ってくれたのが、嬉しすぎて、かわいすぎて……。
ぼく、もしかしたら、だめかもしれません。
そうなったら、遠慮なく殴るなり蹴るなりしてください。
嫌われたく、ないんで」
ドアにてをかけたまま、初瀬さんはうつむき加減で話した。
わたしは内心バクバクで、初瀬さんの言葉に続ける。
「あの…、大丈夫です。
そんな初瀬さんを嫌いになるなんて、あるわけないじゃないですか」
そう言うが早いか、初瀬さんはドアノブを回して、わたしを中に押し込んだ。
力に圧倒され倒れそうになるわたしをまたひっぱって、彼はわたしを、きつく抱き締める。
初瀬さんの背後で、ドアがしまるおとがした。
しばらく、無言が続く。わたしの心臓は、爆発寸前だった。
「初瀬さん……」
「離したくない……」
絞り出すように、彼はそう呟いた。
「ずっと好きだった。ずっと見てた。ずっとほしいと思ってた。
……やっとぼくのものになった。もう、離したくない」
そう言って、一層強く抱き締められる。
いつものバーテンダーの初瀬さんとも、今日一緒に話していた初瀬さんとも違う、少し強引な彼。
わたしはとまどいながらも、初瀬さんのすべてを受け入れたくて、彼の背中に、きつく腕を回した。言葉がこぼれる。
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