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つづきは、ナイショで。
「えーと……何に致しますか?」
初瀬さんは少しぎこちない笑顔で、わたしに聞いた。
こっちだって、覚悟は決めてきたんだ。
一週間のお返し、させてもらいますよ?初瀬さん。
「ハーベイウォールバンガーで」
まさしく初瀬さんのような、このお酒。
わたしは敢えて、初瀬さんの目を見て言った。
初瀬さんの瞳孔が、少し開く。
「……かしこまりました」
そう言って、彼はグラスを選び出した。
見慣れた彼のその背中。
けれど今日は、少しだけ、なにかが違うような気がした。
わたしは、そんな背中に声をかける。
「あの、初瀬さん」
「はい?」
わたしは意を決した。
「先日はお世話になりました。
それで…お話ししたいことがあります。
お暇な日や、時間を、教えていただけますか?」
初瀬さんは、少し、目を泳がせた。そして、ゆっくり口を開く。
「えーと……、明日の夕方までとか、あと明後日は1日お休みですね」
「では、お仕事前に邪魔はしたくないので、明後日、お会いして頂けますか?
時間と場所は……午後2時、音川本町駅の北口でどうでしょう」
「……わかりました」
そう言ったあとで、彼は軽くステアをした。
ガリアーノを、ティースプーンで2杯。
そうして、「どうぞ」といいながら、わたしに差し出した。
その日は、この一杯だけで、おいとますることにした。
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