第1章

13/27
前へ
/308ページ
次へ
「ごめん」 「先輩は、何ですぐそうやって謝るんですか?」 美波が呆れた感じで僕を見た。 「でも、そう思ったから」 そうとしか言いようがない。 「あんまり、謝らない方がいいですよ」 美波はただそう言って、またぼくの袖を引っ張って入り口に向かった。 もう弁償することになっているから、引っ張るのに躊躇がない。 カバンの中身とかのセキュリティチェックの後、その先の改札みたいなところで、スマホの画面にチケットを表示してかざすとOKが出て、目の前の金属のバーを押し回して通れる。 ここは何度も来たことがあるけど、スマホでの入場は初めてだった。 「簡単なんだね」 「そうですよ。今度からはオンラインで買うのが早いですよ」 「あ……」 僕の声に美波が振り返る。 「どうしたんですか?」 「チケット代払わなきゃ」 僕はバッグから財布を取り出そうとしたけど、 「いりませんよ。私が誘ったんだし」 「いや、そういう訳にもいかないよ」 「何でですか?」 そう聞かれて、答えに戸惑った。 一番最初に浮かんだのが、 『恋人同士でもないし』 だった。 なぜそれを最初に思い浮かべたのか、僕自身疑問だった。それは、今言うことじゃない。
/308ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加