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「ごめん」
「先輩は、何ですぐそうやって謝るんですか?」
美波が呆れた感じで僕を見た。
「でも、そう思ったから」
そうとしか言いようがない。
「あんまり、謝らない方がいいですよ」
美波はただそう言って、またぼくの袖を引っ張って入り口に向かった。
もう弁償することになっているから、引っ張るのに躊躇がない。
カバンの中身とかのセキュリティチェックの後、その先の改札みたいなところで、スマホの画面にチケットを表示してかざすとOKが出て、目の前の金属のバーを押し回して通れる。
ここは何度も来たことがあるけど、スマホでの入場は初めてだった。
「簡単なんだね」
「そうですよ。今度からはオンラインで買うのが早いですよ」
「あ……」
僕の声に美波が振り返る。
「どうしたんですか?」
「チケット代払わなきゃ」
僕はバッグから財布を取り出そうとしたけど、
「いりませんよ。私が誘ったんだし」
「いや、そういう訳にもいかないよ」
「何でですか?」
そう聞かれて、答えに戸惑った。
一番最初に浮かんだのが、
『恋人同士でもないし』
だった。
なぜそれを最初に思い浮かべたのか、僕自身疑問だった。それは、今言うことじゃない。
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