学園版 バラの姫と星の王子

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 第二章 「課外授業とヴァッサー国」  その日最初の授業はヴァッサー国の訪問だった。路上生活者が多く暮らす国を見て、自国でできる支援を考えるのが目的だ。  馬車に乗って二時間ほど移動すると、崩れかけた階段やそこに座っている子ども、タバコを吸いながら話している男女の姿が見えてきた。  「独特(どくとく)の街並みですね」ローゼが小声でつぶやくと、リーラが 「ああいう人たちは嫌いだわ」と返した。    学生たちは五つの班に分かれて、市民からここでの暮らしを聞いたり、スプーンやフォークを用意して炊き出しの手伝いをした。シュテルンはローゼ、 モーントとともに彼らにパスタを作っていた。汚れた白いシャツにベージュのズボン姿の白髪の男性がその様子を見ている。年齢は50代くらいだろうか。  「あんたたちはオイレ国にある学校から来たのかい?」と静かな口調で聞かれ、緊張しながら「はい」と答える。「俺たちみたいな人のことを考えてくれるなんて、嬉しいよ」とにっこり笑う男性に、三人も笑いかえす。  トマトとチーズが入ったパスタができあがると、湯気(ゆげ)とともにおいしそうなにおいが風に乗ってあたりに流れていく。男性の猫にキャットフードをあげていた茶髪の若い女性が「こんにちは!おいしそうね」と声をかけてきた。20代くらいで、夏の葉っぱのような濃い緑色の瞳を持っている。  「わたしはゾマー。週に三回、こうして彼らに声をかけながら見守ってる。 よろしくね」「おれはシュテルン、隣にいるのは同級生のモーントとローゼです」お互いの紹介を終えた後、パスタを食べながら彼女がしているさまざまな支援について聞いた。  「今は炊き出しの他に、合唱や新聞づくりなどもやってるわね。ここにいるのはいろいろな事情で家にいられなくなった人たちだけど、とても温かくて 博識(はくしき)な人が多いかな」「どうして、ここで支援活動をしようと 考えたんですか?」モーントの質問に、「わたしも高校生の時にはじめてここ に来て、住んでる人たちに助けてもらったことがあったの。  お昼ご飯を持ってきていなかった時に焼き立てのパンを分けてくれたり、男性同士の怒鳴りあいを見てびっくりしているわたしに「大丈夫だよ、あの二人は実は親しいんだ」って声をかけてくれたり。そういうことを経験したから、今度はわたしができることをしたいと思ったの」ゾマーはそう言って、パスタを食べ終えた。  「ごちそうさま。ありがとうね、来てくれて」「こちらこそ、ありがとうございます。勉強になりました」三人が馬車に乗り込もうとすると、先ほどの 男性がやってきて「俺はグルック。今日知ったことを、他の人にも伝えてくれ」と言いながらシュテルンに何かを渡した。使っていない、新品のノートだ。 「学校での勉強に使ってくれ」「ありがとうございます」リーラが二人の 様子を見ながら、「少しだけ考えが変わったわ。百聞は一見にしかず、ね」 と同級生に言っているのが聞こえた。  学生たちは馬車に乗り込み、ヴァッサー国を出た。ゾマーやグルックが手を 振りながら「また来てくれよ」と叫んでいた。      
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