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第四章 「モーントとおば」
モーント・ヒムメルは他国で生まれた王子だが、家族は育ての親である
おばしかいない。生まれた時から世話をしてくれた彼女には先週送った手紙で「ありがとう」と伝えた。
昼食を終えて自室に戻ると、シュテルンが窓から外を見ていた。「お前の
おばさんは元気か?」と聞かれ、「うん。今は姫たちの世話をしてるんだ」と
答える。「優しいおばさんなんだな」とつぶやく彼に、恥ずかしくなりながら
「ああ」と返す。「俺は両親を知らずに育った。おばさんがいなかったら、孤児になってたよ」実の親との関係はあまり思い出したくないことなので、ぶっきらぼうに答えると「そうなんだ」と言ったきり、シュテルンは黙り込んだ。
「俺は4歳でおばさんと一緒にヴァッサー国に住み始めた。本の好きな
人で毎日読み聞かせをしてくれたよ。体が大きくなっていくたびに新しくて
清潔な衣服を買って、俺に着せてくれた。自分のことは後回しにして、俺を
大事にしてくれたんだよ。いつか化粧道具を贈ってやりたい」それは彼にとって、はじめての「決意」だった。
語り終えた時、シュテルンは何も言わなかった。「聞いてたか俺の話」と
彼を小突くと、「うん。おれの母親のことを思い出してた」と答えて
にっこりと笑う。「今度お前のことも教えてくれ」「もちろん」
授業開始の鈴が鳴り、二人は荷物を持って教室へと向かった。
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