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第六章 「護衛と剣術」
それから二週間後。オイレ国の中庭では剣を打つ音が響いていた。今日は
要人が敵に襲われた時のために、教師が敵役となって学生たちに
剣の使い方を教えている。(男子と女子がそれぞれ交代で戦う)。
シュテルンは語学教師のフロイデと対戦していた。彼女の持つ長剣には
赤いタカが描かれていて、実力があるということが分かる。
母の形見の短剣とフロイデの持つ長剣が激しくぶつかり、その金属音が
あたりに響いている。大きく長剣が振られ、隙ができた。すかさず短剣で押すと、長剣が中庭の外に飛んでいった。
「そこまで!勝者、シュテルン・オイレ!」ヴォルケンが片手をあげると、
大きな拍手が聞こえてきた。汗をぬぐいながらフロイデに「ありがとうございました」と礼を言う。
「ブンダバー!すごいわ」とほめられ、少し恥ずかしくなる。木でできた
ベンチに座りながら塩が入った水を飲んでいると、モーントがヴォルケンと対戦しているのが見えた。
「お疲れ様でした。あなたの技に、驚いています」と言って、ローゼがハンカチを渡してくれた。気恥ずかしくなりながら受け取り、汗をふく。
全員の対戦が終わると、ヴォルケンが学生たちの前に立って「午後からは
護衛のやり方を教える」と言った。
護衛の練習では校舎内にいる10頭の馬にそれぞれ一人が乗り、中に果物が
入った木箱を敵役の学生から取り返すということをした。リーラがもう一人の男子生徒(黒髪で薄い緑色の目)を追いかけていると、自分たちのほうを見つめる長身の女性がいるのに気づいた。彼女はゆっくりと校舎の中へ入っていき、その日はもう現れなかった。
「(誰だったんだろう?)」と思いながら自室に戻ってベッドに入ったが、
起きると寝間着が汗びっしょりになっていた。「(あの人はあぶない)」と
いう考えが、彼女の緊張した顔に現れていた。
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