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その7
時間がきた。
指定されたライヴ配信チャンネルを立ち上げると、予想していたのとは違う画面が浮かび上がった。
アイヴィー。
ゴンちゃん。
ジャッキー。
ショージ。
「ズギューン!」不動の4人。全員が同じ画面に映っている。
4分割された画面に。一人ずつ。
全員の背景には、同じような背景が映っている。
木目調のクロス。低い天井。壁に並んだアンプ。
どこかの、音楽スタジオだ。
スタジオにカメラを固定して、合成した画面を中継している。
アイヴィーがマイクを握った。
「どもっ、“ズギューン”ですっ!予想と違ったかな?みんな、別々の部屋にいるんだよ。」
ショージが転がすように短いドラムロールを入れる。
黒いタンクトップ、短めのスパイクヘア。リラックスしているのに力がみなぎる両腕。ドラムセットに座ったショージは、最高にいい男だ…普段は実に残念なんだけど。
「いま、こんな事態になってさ。“ズギューン!”も、いろいろ考えたよ。ライヴを続けるのも覚悟だし、止める勇気も素晴らしいよ。みんな、がんばってるよね。」
今夜のアイヴィーは、赤いライダースにデストロイのガーゼ・シャツ。ボトムは黒いレザーのスカートに、ボーダーのストッキング。赤い髪がフワフワと揺れている。
「でもさ、アタシはこう思うんだ。何をどうするにせよ、誰かに言われたとか、周りがどうしてる、とかじゃなくて…自分たちが納得して、やらなきゃウソだよ。だから、アタシたちは今夜、自分たちが納得する方法で、ライヴをすることにしました。」
ゴンちゃんは、いつも通り巨大なモヒカンに細身のサングラス。使い込んだ革ジャンを、新しいスタッド(鋲)でカスタムしてきた。実は最近、今まで以上に「目が可愛くなった」とよく言われる。
「ここは都内の某スタジオだよ。アタシたち全員、別々の部屋にいて、オンラインで音をつないでます。画面はちゃんと映ってる?全員、いるでしょ。今ってすごいよね!こんなこと、簡単にできちゃうんだもんね。」
「まあ、ジャッキーの本領発揮だったよな、今回は。」
ゴンちゃんがそう話を振ったけど、相変わらずジャッキーは青い顔で緊張している。髪の毛は、金と銀のツートンに染めた鋭いスパイク。密かに最近、女子に人気があることを、まだ彼は知らない。
「やるからには、徹底的にやったよ。まずこのスタジオ内を、徹底的に消毒しました!アタシだけじゃないよ、全員がね。半端なことは、しないよ。」
ショージがニヤニヤしている。あまりにも仕事が雑だったので、ショージだけやり直しさせられたのは内緒だ。
「いまライヴをするからには、このスタジオに入って出て行くまで、アタシたちの誰ひとり感染するわけにはいかない。だから、やり切った状態でライヴするんだよ。」
ショージがビートを刻み始めた。ジャッキーがベースをうねらせ、ゴンちゃんがむせぶようなギターでかぶせる。
「さあ、楽しむよ!みんなも、思い切り楽しんでね!」
アイヴィーはそう言うと、頭を激しく後ろに振り上げた。赤い髪の毛が、地平線を昇る太陽のようにフワリと広がる。
「ワン、ツー、スリー、フォー!」
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