彼とチューベローズに溺れて

13/26
前へ
/26ページ
次へ
「おじさん、どうしていなかったの? 」 「ん~~、ちょっと用事があったんだ。ごめんね? 」 娘に問われ彼が頬をかきながら困っている。 「おじさん、それなぁに? 今なにしてるの? 」 「これ? これは鎌だよ。今、そこの花壇の手入れをお手伝いしてたんだよ」 二人のやりとりに、地面とにらめっこをしていた視線を少しあげると、彼は軍手をはめ、右手に鎌を持っていた。 「……そういえば、この花壇って何を植えてるんですか? 」 視線を花壇にうつし、4月頃に鱗茎から発芽したみたいだったが、今は披針形の葉、根生葉が数枚、茎を抱く葉が十枚前後ある花が等間隔で並んでいる。 「チューベローズですよ」 「ちゅーするボーズ? 」 「あはは! チューベローズっていうお花だよ」 花壇を見ながら答えてくれた彼は、娘の聞き返しに吹き出し、しゃがみこんで目線を合わせてゆっくりと花の名前を口にした。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加