第ニ話

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 お凜がここに連れてこられたのは、今から二月ほど前。大好きな父親が死んだ日、父の妹お夕がお凛の家にやってきた。お夕は、母親のいないお凛の家に、時々ご飯を分けに来てくれる優しい人だ。一人で泣いていたお凛に、これからはおばちゃん達と一緒に暮らそうと言ってくれた。だがその日の夜、お夕と伯父の言い争っている声が聞こえた。 「冗談じゃねー!今年は凶作で上に収める年貢もたいへんだってのに、ただでさえ多い子供をこれ以上増やしてどうすんだ!他人の子を食わす余裕なんてうちにはねーよ」 「他人の子ってのはないじゃないか!私の兄さんの子ってことは、あんたの兄さんの子でもあるんだよ」 「うるせー!とにかく弥七に話しつけておいたから、明日お凛を引き渡す。お凛ははねっかえりの強情なガキだが器量はいいからな、もう前金はもらってあるんだ」 「そんな…あんた、あの子は義姉さんが死んだ後、兄さんが男手ひとつで必死に育ててきたんだよ。できれば所帯を持つまで面倒見てあげたいんだよ。女衒にお凛を売ったなんて言ったら兄さんに顔向けできないよ」 「うるせー!決めるのはこの家の主人である俺だ!お凛は弥七に引き渡す、わかったな!」  お凛は耳を塞いで目をつぶる。二人の会話の全てを聞き取れたわけではなかったが、ここにいることはできないのだということだけは理解できた。  次の日の朝、弥七という名の、背の低いずるそうな顔をした男がやってきた。  お夕はずっと下をむいたまま、お凛の顔を見ようとしてくれなかったが、最後にお夕の笑った顔が見たくて、今までありがとうと言った。だけどそれは逆効果で、お夕は泣きながら家の中へ入っていってしまった。お夕を恨む気持ちなど全くない。むしろ、自分のために泣いてくれる人がまだいるのだということが嬉しかった。
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